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合成プレバイオティクスで大腸に酪酸を届ける

こんにちは、onakademy編集部です。これまでのonakademyの数回の配信では、基礎的な腸内環境の知識を中心にお伝えしてきました。これらの記事は図書室や談話室のマガジンに掲載されているので、興味のある方はそちらをぜひ覗いてみてください。



今回から度々投稿していく研究室マガジンについて少し説明させてください。

初回に配信した自己紹介記事でもご紹介したとおり、onakademyでは研究に親しんでいる方にもそうでない方にも、おなか(=腸内環境)の世界をお届けできればと思っています。

研究室のマガジンでは、研究者あるいは腸内環境玄人向けの、腸内細菌研究に一歩踏み込んだ内容をこれからお届けしていきます。
内容の難易度や取り上げるトピックについては、ぜひ読者のみなさんからもコメントをいただければと思います。

研究室の投稿初回となる今回は、先日配信した短鎖脂肪酸と既存のプレバイオティクスを組み合わせて短鎖脂肪酸を大腸に直接届けられる合成プレバイオティクスの機能を評価した研究をご紹介します。

短鎖脂肪酸が有益だという話をすると、「短鎖脂肪酸をそのまま摂取すればいいのでは?」という声がよく挙がります。しかし、短鎖脂肪酸を口から飲むのはなかなか難しいのです。

酢酸はお酢ですので大量摂取するのが難しいのは想像に難くないと思います。また、プロピオン酸や酪酸は非常に臭いので口から摂取するのはかなり抵抗があります。さらに、短鎖脂肪酸は低分子ですので、摂取したとしても小腸から吸収されてしまいます。

そういう意味で、大腸に直接短鎖脂肪酸を届けられるプレバイオティクスが開発されたのは面白い取り組みだと思い、この論文を取り上げました。


タイトル:
Butyl-fructooligosaccharides modulate gut microbiota in healthy mice and ameliorate ulcerative colitis in a DSS-induced model
(ブチルフラクトオリゴ糖は健康なマウスの腸内細菌叢を調節し、DSS誘発モデルにおける潰瘍性大腸炎を改善する)

今回紹介するのは、プレバイオティクスの一種であるフラクトオリゴ糖に短鎖脂肪酸の一種である酪酸を付与したブチルフラクトオリゴ糖(B-FOS)のプレバイオティクスとしての評価をした研究です。

結果は非常にシンプルで、B-FOSをマウスに投与すると、腸内の酪酸濃度が有意に増加することが観察されました。

このB-FOSに由来した酪酸濃度の増加は、フラクトオリゴ糖や酪酸ナトリウムを個別に投与したときよりも大きく、プレバイオティクスであるフラクトオリゴ糖に酪酸を付与することで、より効率的に腸内の酪酸濃度を増加させる事ができることが示されました。

酪酸産生菌ではないものの、Bifidobacterium属 が増加したことも確認されています。

また、B-FOSの投与で大腸炎の症状が改善することも示されました。デキストラン硫酸ナトリウム塩という化合物で炎症を意図的に引き起こした大腸炎モデルマウスにB-FOSを投与した結果、大腸炎の症状が軽減されました。さらに、タイトジャンクション[1]タンパク質の一種であるオクルディンの発現が増加することもわかりました。

これは、ウイルスなどの異物から体内を保護する腸管バリアの機能が改善したことを示唆する結果です。

逆に、TNF-αやIL-8などの炎症性サイトカイン[2]の発現が抑制されました。

これらの結果から、B-FOSは

  • フラクトオリゴ糖や酪酸ナトリウムを個別に投与するよりも効率的に腸管中の酪酸濃度を向上

  • 腸管バリア機能を改善

  • 炎症性サイトカインにより誘導される炎症を抑制

することで大腸炎を改善することが示唆されました。

プレバイオティクスとプロバイオティクスを組み合わせるシンバイオティクスは古くから知られる概念で、医療の分野等でも使われていますし、シンバイオティクスヨーグルトなども販売されています。

しかし、プレバイオティクスと代謝物質を組み合わせた商品・素材というのはあまり研究が進んでいない分野であると思います。一方、類似したデザインであるイヌリン(プレバイオティクス)とプロピオン酸(代謝物質)を組合せたイヌリン-プロピオン酸エステルなどでも同様に有益な効果が報告されています[3]。

プレバイオティクスと代謝物質を組み合わせることも今後有益なアプローチとして期待されるかもしれません。

それでは、次回の記事でまたお会いしましょう。

参考文献

Kang, S. et al. Butyl-fructooligosaccharides modulate gut microbiota in healthy mice and ameliorate ulcerative colitis in a DSS-induced model. Food Funct. 13(4), 1834-1845 (2022)

注釈

[1] 皮膚・胃・腸などの上皮組織を構成する上皮細胞に存在する細胞間接着装置。細胞同士を機械的につなぐことでバリアを形成し、腸内細菌や病原菌、毒素といった外来異物の侵入を防ぐ役割を担う。
[2] サイトカインは免疫細胞から分泌される低分子のタンパク質で、細胞間の情報伝達の役割を担っている。その中で炎症を引き起こす機能のあるものを指す。
[3] Chambers, E. et al. Dietary supplementation with inulin-propionate ester or inulin improves insulin sensitivity in adults with overweight and obesity with distinct effects on the gut microbiota, plasma metabolome and systemic inflammatory responses: a randomised cross-over trial. Gut 68, 1430-1438 (2019).

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