【日本人には超レアな腸内細菌がいる!?】異なる地域の腸内フローラを比較してみた
こんにちは、onakademy編集部です。
気づけば2024年も後半に突入し、蒸し暑い季節がやってきました。
日本の過酷な夏から逃れるべく、海外旅行を計画する方もいるのではないでしょうか。
海外に行くと、日本とは全く異なる食生活に戸惑いを覚える方もいるかもしれないですね。
これまでonakademyをフォローしてくださっている方は、腸内フローラが日々の食生活に影響を受けることは既にご存知かと思います。
海外の人の腸内フローラは日本人と違うのかも?
という疑問に行き着くひともいるかも知れません。
実は、これまでの研究で世界の地域で腸内フローラの特徴が異なることがわかってきています。本記事では各国や地域における特徴的な腸内環境についてわかっていることを紹介します。
アジアと欧米諸国における腸内フローラの違い
よく論じられるのは、欧米とそうでない国との腸内フローラの違いです。
一般的に、アジアの人々は欧米の人々に比べて腸内細菌の組成が異なることがわかっています[1]。
これは、アジアの食事が伝統的に発酵食品や植物性食品を多く含む一方、欧米では高脂肪・高タンパクの食事が多いからだと言われています。
具体的な腸内フローラの傾向もある程度違いがあり、アジアの人では欧米人と比較して食物繊維を代謝するPrevotella属の割合が多く、欧米人ではBacteroides属が多いことも報告されています[2]。
都市部と農村部の腸内フローラの違い
同じ国の中でも、都市部と農村部では腸内フローラに違いがあると言われています。
一般的に、農村部のヒトは都市部のヒトよりも多様性が高い腸内環境を持つことがわかっています。腸内フローラの違いを見ても、都市部のヒトや農村部で農業を営んでいるヒト、狩猟採集民族など、生活習慣の違いでも異なる傾向が存在することが明らかになっているのです[3]。
2020年に報告されたロシアの研究では、全体的なロシア人の腸内フローラは欧米人のものと異なっていたものの、都市部のヒトはより欧米に近い腸内フローラを持つことも報告されています[4]。
また、同じ研究の中で農村地域ではPrevotella属やFaecalibacterium属が多いなどの特徴を持ち、農村部の中でも部族の生活習慣の違いなどによって腸内フローラのパターンも異なることが示されています。
また、先進国ではそうでない国と比べて腸内フローラのパターンが異なることもわかっています。
2024年に報告された研究ではある食物繊維を分解する菌がヒトの腸内環境から失われつつあることが指摘されました[5]。
本来、人が消化できない食物繊維であるセルロースは腸内細菌が分解することで、短鎖脂肪酸などの有益な物質を作り出してくれます。実際、この研究では古代の人の便の化石や狩猟採集民族、霊長類などの検体を複数集めて腸内フローラを評価していますが、それぞれのくくりにおいて、検体の20%以上からはセルロース分解菌が検出されています。
ところが、先進国では、農村部に住んでいる人でもセルロース分解菌はほとんど検出できなくなっている、という衝撃的な事実も明らかになっています。
全体的に食生活が欧米化しているためかセルロースを含む食事を分解する必要性が薄くなり、代を経ることにそのような能力を持つ腸内細菌が居なくなっていったということだと考えられます。
本来植物を(腸内細菌が)分解することで追加で得られていたはずのエネルギーや健康効果を先進国では享受できなくなっているということですね。これも近代化の弊害ということか。。
日本人の腸内環境の特徴
日本人は世界的に見ても特殊な民族です。その特徴として、比較的低いBMIや長寿であることなどが挙げられます。同様に、我々日本人の腸内環境にも特徴があります。
早稲田大学の服部先生のグループによる研究では、100人を超える健康な日本人の腸内環境を外国人の腸内環境と比較しています。その結果、腸内フローラの情報から正確に国籍を判別できる予測モデル*を作成できるほど、国ごとに腸内細菌が異なることがわかりました[6]。
(* いわゆる「AI」や「機械学習」と呼ばれる技術の一つです)
特に、日本人は外国人と比べて、Bifidobacterium属(ビフィズス菌)やBlautia属の細菌が腸内に豊富に存在することも明らかになったのです。
それだけでなく、日本人の腸内には、海苔分解菌と呼ばれる特定の細菌が存在することが知られています。Bacteroides plebiusという細菌です[7]。
この細菌は、海苔に含まれるポルフィランという多糖類を分解する酵素を持っていて、日本人が海苔を効率よく消化吸収できるようにしてくれています。
この細菌は、寿司やおかずとして海苔を常食する日本人の腸内に特有のものであり、北アメリカに住む人の腸内環境からはほとんど検出されないと言われています[7]。
海外で和食が食べたくなるのは日本人ゆえ
国や地域によって腸内フローラは大きく異なります。その違いは主に、その地域の食事によって構成されているのです。
例えば、海外旅行に行く際に和食が恋しくなったり、欧米でサラダが無償に食べたくなったりすることはありませんか?
あなたの腸内には日々の食事を効率よく分解する、あなたにとっての「エリート菌」が棲み着いています。あなたが和食や野菜を欲している時、実はあなた本人ではなく、あなたの腸内細菌が欲しているのかも。
食の好みと腸内細菌の関連については、過去に記事を掲載しているので、興味のある方はそちらもご一読ください。
余談ですが、以前私が知人とネパールに旅行に行ったことがあります。
その際、欧米出身の友人は現地の食事に適応できずお腹を下してしまう人が続出しました。一方で、私を含むアジア人は美味しく堪能できていた気がします。
今思えば、似たような食文化の国から来たアジア人はうまく適応できていたのかもしれないですね。
参考文献
Escobar, J. et al. The gut microbiota of Colombians differs from that of Americans, Europeans and Asians. BMC Microbiol 14, 311 (2014).
Sheng, Y. et al. Combined analysis of cross-population healthy adult human microbiome reveals consistent differences in gut microbial characteristics between Western and non-Western countries. Comput Struct Biotechnol J. 23, 87-95 (2023).
Rosas-Plaza, S. et al Human Gut Microbiome Across Different Lifestyles: From Hunter-Gatherers to Urban Populations. Front Microbiol. 13, 843170 (2022).
Tyakht, A. V., et al. Human gut microbiota community structures in urban and rural populations in Russia. Nat. Commun. 4, 2469 (2013). ↩
Moraïs S. et al. Cryptic diversity of cellulose-degrading gut bacteria in industrialized humans. Science. 383(6688), eadj9223 (2024).
Nishijima, S., et al. The gut microbiome of healthy Japanese and its microbial and functional uniqueness. DNA Research 23(2), 125–133 (2016). ↩
Hehemann, J. H., et al. Transfer of carbohydrate-active enzymes from marine bacteria to Japanese gut microbiota. Nature 464, 908–912 (2010). ↩