腸内代謝物質

腸内細菌が食物繊維などの「腸管に届いた未消化物」を分解(=代謝)することで産生する物質を指します。ヒト腸管内では非常に多様な腸内代謝物質が産生されていると言われており、現在の科学技術では全ての物質を同定はできてはいませんが、最低でも約2,000種ほどの物質が産生されていることが判明しています[1]。

腸内代謝物質として特に重要な物質としては「短鎖脂肪酸(Short-Chain Fatty Acid; SCFA)」が知られています。これは腸管に到達した「菌が分解できる炭水化物(食物繊維など)」を腸内細菌が代謝することで作られる物質です[2]。なお、この「腸管に到達する腸内細菌が代謝できる炭水化物」のことをMicrobiota-Accesible Carbohydrates(MACs)と呼びます[3]。

腸内代謝物質は前述の通り非常に多様な物質が含まれており、有益な効果をもたらすものもあれば、病気の発症や重症化に関わるものもあります。例えば、MACsから作られる短鎖脂肪酸は有益な効果が非常に多いことで知られる腸内代謝物質です[2]。
一方で、赤身肉などに含まれるカルニチンなどを腸内細菌が代謝して産生するトリメチルアミン(海産物の腐敗臭の原因物質)は、肝臓に送られることでトリメチルアミン-N-オキシドに代謝され、動脈硬化などの心血管疾患のリスクに繋がることが報告されています[4]。

また、最近の研究では医薬品の効果にも関係することが示されています。有名な例としては、2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑先生の開発されたがん治療薬(抗PD-1抗体)においても、腸内で馬尿酸と呼ばれる腸内代謝物質が産生されている人では治療薬の効果が高かったことなどが、本庶先生ご自身の研究グループから報告されています[5]。

参考文献

[1] Folz et al. Nat. Meb. 2023; 5(5): 777
[2] Koh et al. Cell, 2016; 165(6): 1332
[3] Sonnenburg, E. and Sonnenburg, J. Cell Metab. 2014; 20(5): 779
[4] Tang et al. N. Engl. J. Med. 2013; 368(17): 1575
[5] Hatae et al. JCI. Insight, 2020; 5(2): e133501

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

今週も最後までお読みいただきありがとうございます!記事は毎週月曜日更新。次回の記事もお楽しみに!