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乳酸菌とビフィズス菌。似てるようで実は遠い存在だった

こんにちは、onakademy編集部です。

先週はプレバイオティクスとプロバイオティクスの違いについて説明した記事を上げました。

プロバイオティクスを試してみようと考えるとき、真っ先に候補に上がるのがヨーグルトかと思います。

みなさんはヨーグルトを選ぶ時、どんな菌が入っているのか気にしたことはありますか?ヨーグルトはその手軽さから腸活に取り入れている方は多いですよね。

しかし、ヨーグルトによって含まれている菌が違うことを意識している人は、どの程度いるでしょうか。

ヨーグルトに含まれている菌の代表的なものに「乳酸菌」と「ビフィズス菌」がありますが、これらは往々にして同じ括りで扱われることが多い菌です。

どちらもプロバイオティクスとして、腸に到達した際に有益な効果をもたらしてくれますので、そういう観点では同じ文脈で話すのも間違っていないのかもしれません。

しかし、実はこれらの菌には大きな違いがあるのですが、このことはなかなか知られていないかと思います。

今回は、乳酸菌とビフィズス菌の何が同じで、何が違うのか解き明かすため、ミクロの世界へご案内しましょう。



乳酸菌とビフィズス菌の特徴


そもそも乳酸菌、ビフィズス菌とは何なのでしょうか。

乳酸菌とビフィズス菌には以下の表にあげているような特徴があります。
詳細はこの後説明していくので、概要だけ頭に入れておいてください。


属性・産生する代謝物質

乳酸菌とは、「ブドウ糖を分解する際に産生する代謝物質の50%以上が乳酸である菌の総称」とされています[1]。

多くの菌が少量ながらも乳酸を産生することがわかっているので、それらの菌と区別をするために、基準が設けられているといわれています。

日本で有名な乳酸菌にはLactobacillus gasseri (ラクトバチルス ガセリ)や Lactobacillus delbrueckii subsp bulgaricus (ラクトバチルス デルブルッキー ブルガリカス) などが知られています。

これらの名前、どこか聞き覚えがありませんか。

そう、L. gasseriはガセリ菌、L. delbruekii subsp bulgaricusはブルガリア菌と呼ばれているものです。

ヨーグルトや乳飲料に含まれていることが多く、商品パッケージにも記載されていることが多いですよね。

「乳酸菌」が「乳酸を作る菌」という機能に基づいた呼び方である一方で、「ビフィズス菌」というのはBifidobacterium 属(ビフィドバクテリウム属)に分類される菌のみを指します。

これは実験(最近だと遺伝子やゲノム情報の比較)によって菌を系統的に分類したものです。

そもそも指している菌の属性(まとめ方)が異なるのです。

また、ビフィズス菌も少量の乳酸を産生しますが、主に産生する代謝物質は短鎖脂肪酸の一種である酢酸です。

短鎖脂肪酸については以下の記事で解説しているので興味のある方はどうぞ。

ビフィズス菌の代表的なものにはBifidobacterium bifidum(ビフィドバクテリウム ビフィダム)やBifidobacterium longum(ビフィドバクテリウム ロンガム)などがあります。

ビフィズス菌は知名度も高く、腸内細菌といえば、という菌の一つかもしれませんね。

多く存在する場所・酸素に対する応答

乳酸菌や、ビフィズス菌などの腸内細菌は嫌気性細菌と呼ばれ、生きていくのに酸素を必要としません

また、嫌気性細菌にも2種類存在し、酸素があっても生きていける菌を通性嫌気性、酸素があると死んでしまう菌を偏性嫌気性と呼びます。

(ここは少しマニアックなので覚えなくても大丈夫です。難しければ、こういう専門用語があるんだ、程度に読み飛ばしてください)


ビフィズス菌は偏性嫌気性 = 酸素があると死んでしまう菌なので、より酸素の濃度が低い大腸を主な生息場所としています。

一方、乳酸菌の多くは通性嫌気性 = 酸素があっても大丈夫な菌の細菌です。なので、大腸と比べて酸素の濃度が高い小腸でも生息する事ができます。
そのため、小腸にいる腸内細菌の多くは乳酸菌なのです。

・・・専門用語が多くて頭が疲れましたよね。

この部分のメッセージは、酸素への適性によって主な生息場所が異なるということです。

乳酸菌は小腸、ビフィズス菌は大腸

程度のざっくりした感じで覚えておくとよいかと思います。

分類学上の違い

すこしマニアックな話にはなりますが、決定的にビフィズス菌と乳酸菌が異なる点があります。それは分類学上の違いです。

この世のあらゆる生物は遺伝情報がどの程度似ているかという観点でグループ分けされておいます。これを分類と呼びます。

分類には以下の7つの異なる階級があります:

界・門・綱・目・科・属・種


生物の分類(一部はこの下に亜種や株などがあります)

この内、乳酸菌のほとんどはバチロータ門(Bacillota、バチロータ)*に分類されますが、ビフィズス菌は放線菌門(Actinomycetota、アクチノミセトータ)に分類されます。

実はビフィズス菌と乳酸菌は門レベルというかなり上の分類で異なっているんですね[1]。

*以前はFirmicutes門という名前でしたが、2021年に名前が変わっています[2]。

門の名前を言われてもほとんどの方はおそらくピンとこないでしょう。

我々人間が含まれる「ヒト属」を例に挙げるとわかりやすいかもしれません。ヒト属は分類を辿ると脊索動物門(Chordata)に含まれます。これと異なる門となると棘皮動物門(Echinodermata)などがあります。

棘皮動物門に含まれるのはヒトデやウニ、ナマコなどの動物です。

おわかりいただけたでしょうか。ビフィズス菌と乳酸菌は分類学上は人間とナマコほどの違いがあるのです。

***

ということで、同列に語られることが多い乳酸菌とビフィズス菌ですが、厳密には分類や性質が異なる菌なのです。かなり細かい部分なので、豆知識程度に頭の片隅に入れておいてもらうレベルで良いかと思います。

このあたりを周りに語れるようになれば、あなたも腸活博士に足を踏み入れているといっても過言ではないかも・・?

コラム:ビフィズス菌の名前の由来と菌の命名法

冒頭で、ビフィズス菌の代表例の話をしました。

Bifidobacterium bifidum(ビフィドバクテリウム・ビフィダム)や Bifidobacterium longum(ビフィドバクテリウム・ロンガム)などの菌がいましたね。

似ている響きではあるけど、「ビフィズス」という言葉は彼らの名前にはでてきません。では、この「ビフィズス」はどこから来ているのでしょう。

元々Bifidobacterium bifidum は Bacillus bifidus (バチルス・ビフィズス)という名前で知られていました。

ビフィズス菌はV字やY字の形を示すものが多いのが特徴です。そのため、ラテン語で「分岐」を示す ”bifid” から名前をとってBacillus bifidusと名付けられました[3]。

それがビフィズス菌という名前の由来なのです。

ちなみに、ビフィズス菌やガセリ菌など〇〇菌と菌を呼ぶ場合は分類の「種(species)」の名前から取るというルールがあります。

そのルールに則ってBacillus bifidus はビフィズス菌、 Lactobacillus gasseriはガセリ菌と呼ばれているんですね。

また、ブルガリア菌についても、現状は Lactobacillus delbrueckii という菌 の一亜種(種のさらに細かい分け方)という分類にはなっていますが、元々はBacillus bulgaricus(バチルス ブルガリクス)という名前でした。そこからブルガリア菌という名前がとられています。

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参考文献
[1] 福田真嗣編.改訂版もっとわかる腸内細菌叢 “もう一つの臓器”を知り、健康・疾患を制御する!. 羊土社. p.129.2019
[2]  Oren, A. and Garrity, GM. Int J Syst Evol Microbiol. 71,  (2021).
[3] 渡辺 腸内細菌学雑誌;30:129-139 (2016).


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