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腸がもたらす(かもしれない)記憶力のお話

腸内環境は脳と密接に関わっているということはこれまでの記事でも取り上げてきました。

そんな脳腸相関ですが、最近の研究で「記憶力は良い腸内環境によって育まれる」可能性が示されてきているのを知っていますか?

お腹の調子を良くすると記憶力が良くなる、なんてことがあったら嬉しいですよね。

今日はそんな記憶力に関連する研究事例をいくつか取り上げていきたいと思います。


腸内細菌の存在は記憶力に影響する

そもそもお腹にいる腸内細菌が記憶力に影響するなんてことはあるのか?と思う人もいると思います。

実際ヒトの場合だと、記憶力は肉体的な素養だけじゃなくて、勉強法や環境など色々な影響を受けるので、腸内細菌によって記憶力が影響を受けているのかを判断するのは難しそうですよね。

そもそも腸内細菌の有無が記憶力に影響するかどうかは動物を用いた試験で明らかにされており、無菌状態で生まれ育った「腸内細菌を持たずに育ったマウス」では記憶能力が低いことが明らかになっているのです[1]。

長期記憶および短期記憶は腸内細菌の有無に影響される

上記の研究ではマウスの記憶能力試験を用いて腸内細菌がいるマウスといないマウスの長期・短期記憶を評価しており、この両方で「腸内細菌を持たずに育ったマウス」が普通のマウスと比べて低いスコアになっていることが示されています。

腸内細菌がいることで、実は動物の記憶力は高まっているんですね。

上記はマウスの試験ですが、実際にヒトにおいても腸内環境の状態が記憶力(認知能力)に影響していることが複数の研究で報告されており、認知能力が高い人では多様性が高い[2]、認知能力が低い人ではビフィズス菌が少ない[3]など、腸内細菌叢の組成と記憶力の関連なども報告されています。

腸内細菌は神経系の発達に作用することで記憶力に影響している?

腸内細菌がどうやって記憶力に影響しているのか、そのメカニズムはまだ完全には明らかになっていません。

ただ、複数の動物研究で腸内環境が記憶能力に影響することが報告され、更に腸内環境が脳や神経系の成長や制御に関わっていくことが明らかになってきており、この作用が記憶力と関係しているのではないかと考えられています[4]。

脳腸相関のメカニズムは下記記事でも解説しているので良ければ御覧ください。

幼少期の腸内環境の乱れは将来的な記憶力に影響する

腸内環境が脳や神経系の「成長」に影響するのであれば、脳の発達が起きる幼少期の腸内環境の乱れは特に影響があるのでは?と思った方もいるのではないでしょうか。

まさしくその通りで、実は幼少期の腸内環境の乱れは特に記憶能力に良くない影響を及ぼすことが複数の動物試験で報告されています。

例えば離乳後のタイミングで抗生物質を服用させ、腸内細菌がいない状態になったマウスでは認知能力が下がることが報告されています[5]。

より身近な事例では、幼少期に甘いものを食べすぎると腸内環境が乱れ記憶力が悪くなることが報告されています[6]。

この研究では好きなだけ加糖飲料を摂取できる環境でラットを飼育し、成長後の記憶能力を評価しているのですが、幼少期に加糖飲料をたくさん飲んでいたラットでは海馬と呼ばれる脳の部位脳の部位に依存した記憶能力が下がっていたのです。

論文中では加糖飲料を摂取しつづけたラットではParabacteroidesという腸内細菌が増え、この菌の多いほど海馬の機能が低下していたことなども報告しており、腸内環境が乱れたことによって脳の機能に障害が起き、記憶力が低下したことが論じられています。

腸内環境は脳や神経系の発達に関わるからこそ、幼少期に乱れてしまうと将来的な記憶力にも影響してしまう可能性があるんですね。

脳から記憶力を高めるには?

もちろん幼少期だけ気をつければよいのではなく、大人になってからも腸内環境は記憶力に影響します。

動物試験ではありますが、成熟後のマウスに抗生物質を飲ませても記憶力が低下したという報告もあります[7,8]。

ですが、逆に考えれば大人になった今からでも腸内環境を整えることで、記憶力の低下を防いだり、むしろ高めることもできる可能性も有るのです。

実際に臨床研究で報告された事例だと、下記の様なものが報告されています:

  • 発酵乳製品とプロバイオティクス(ビフィズス菌・乳酸菌)を4週間摂取することで、健常な女性において認知機能に重要な脳部位の活性化がみられた[9]

  • プレバイオティクス(イヌリン)を飲ませた健常な20-30代において、再認記憶(過去に経験した・知った事象を「知っている」と認識する能力)が向上した[10]

  • 乳酸菌のプロバイオティクスを摂取した男性において記憶能力が向上した[11]

実は意外と身近な食品やサプリメントでも記憶力の向上が報告されているんです。

発酵乳製品なら試してみようとも思える方もいるんじゃないでしょうか。

年をとるにつれ、どうしても下がってしまう記憶力。
腸内環境を整えて記憶力維持を目指してみるのも良いかもしれません。
まずは砂糖の過剰摂取を控えるところからですね。

参考文献

  1. Gareau, MG. et al. Bacterial infection causes stress-induced memory dysfunction in mice. Gut 60(3), 307 (2011).

  2. Meyer, K. et al. Association of the Gut Microbiota With Cognitive Function in Midlife. JAMA Netw. Open 5(2), e2143941 (2022).

  3. Kokobaric, A. et al. Gut microbiome predicts cognitive function and depressive symptoms in late life. Mol. Psychiatry 29(10), 3064 (2024).

  4. Mohajeri, MH. et al. Relationship between the gut microbiome and brain function. Nutr. Rev. 76(7), 481 (2018).

  5. Desbonnet, L. et al. Gut microbiota depletion from early adolescence in mice: Implications for brain and behaviour. Brain Behav. Immun. 48, 165 (2015).

  6. Noble, EE. et al. Gut microbial taxa elevated by dietary sugar disrupt memory function. Transl. Psychiatry 11(1), 194 (2021).

  7. Fröhlich, EE. et al. Cognitive impairment by antibiotic-induced gut dysbiosis: Analysis of gut microbiota-brain communication. Brain Behav. Immun. 56, 140 (2016).

  8. Möhle, L. et al. Ly6C(hi) Monocytes Provide a Link between Antibiotic-Induced Changes in Gut Microbiota and Adult Hippocampal Neurogenesis. Cell Rep. 15(9), 1945 (2016).

  9. Tillisch, K. et al. Consumption of Fermented Milk Product With Probiotic Modulates Brain Activity. Gastroenterology 144(7), 1394 (2013).

  10. Smith, AP. et al. An Investigation of the Acute Effects of Oligofructose-Enriched Inulin on Subjective Wellbeing, Mood and Cognitive Performance. Nutrients 7(11), 8887 (2015).

  11. Lew, LC. et al. Probiotic Lactobacillus plantarum P8 alleviated stress and anxiety while enhancing memory and cognition in stressed adults: A randomised, double-blind, placebo-controlled study. Clin. Nutr. 38(5), 2053 (2019).

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