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【質問回答】生まれてからのイベントで腸内環境は別人レベルで変わるのか?

こんにちは!onakademy編集部です。
先週に引き続き、目安箱でみなさんからいただいたギモンの1つにお答えしたいと思います。

今後も定期的にギモン回答をしていく予定ですので、普段から腸内環境で気になっていることや、私達の記事を読んでもっと深く知りたいと思ったことなどがあれば、どしどしお送りくださいね!

それでは参りましょう。

質問
産まれたときに母親から受ける腸内細菌の影響、その後の食生活、下痢でどう変わって来るのか、全く別人になってしまうのか気になります。

この質問には大きく3つのギモンが含まれていると思います。

まず端的に回答すると下記のとおりです;

  1. 産まれたときに母親から受ける腸内細菌の影響について
    → 赤ちゃんは自然分娩の際に母親から腸内細菌を受け継いでおり、この乳幼児期の腸内細菌は子どもの将来の健康に影響している

  2. 生まれた後の腸内フローラは食生活や下痢などでどう変わるのか
    → 主に食生活による影響が大きく、食べた食事に含まれる未消化物を好む腸内細菌が増えやすいなどの傾向がある。下痢は治療の際の抗生物質などで影響を受ける場合もあるが、そもそも腸内細菌が変化した結果である可能性もあり、下痢による変化があるかはまだ明確になっていない

  3. 腸内フローラが全くの別人になることはあるのか
    → 食生活を変えた程度では別人レベルで変わることはないが、便移植などでは変わる可能性がある

それでは、それぞれについて、少し詳細に回答をしていきたいと思います;

① 産まれたときに母親から受ける腸内細菌の影響について

ご質問してくださった方はご存知のようですが、赤ちゃんが自然分娩で生まれる場合に最初に腸内に取り込むのはお母さんの腸内フローラです。

お母さんのお腹の中では赤ちゃんはほぼ無菌の状態ですが、自然分娩で膣を通って生まれてくる場合は、お母さんの肛門の近くを通るため、そのタイミングで腸内細菌を受け取ります。

一方で、帝王切開で生まれた赤ちゃんはお母さんから腸内細菌を受け継ぐことができず、代わりに皮膚や口腔内の細菌が検出される傾向があります[1]。

そして、帝王切開で生まれた赤ちゃんは抗生物質の投与などもどうしても多くなってしまうため、結果腸内環境が乱れやすく、自然分娩で生まれた赤ちゃんと比べて結果感染症への耐性が下がったり[2]、アレルギーなどの自己免疫疾患のリスクが高まる傾向にあることが研究によって明らかになっています[3]。

そのため、生まれたときにお母さんから受け取る腸内細菌は、その人の将来的な健康において非常に重要な役割を持つと考えられています。

ちなみに、「じゃあ帝王切開で生まれた赤ちゃんはどうしたら良いのか?」という点については各国で様々な研究がなされており、帝王切開で生まれた赤ちゃんにお母さんの便を母乳に溶いて飲ませることで自然分娩で生まれた場合の腸内環境に近づけられることなども報告されています[4]。

生まれたての赤ちゃんに便を飲ませるというのは中々に過激な検証に聞こえますが、例えば便ではなく「お母さんの腸内細菌だけを培養液やカプセルにしておいて飲ませる」などであれば、心理的な抵抗もだいぶ減ると思います(ヨーグルトなどの発酵に使われている菌ももとは誰かの腸内にいた菌ですからね)。

そのため、将来的には出産方法に関係なく、お母さんの腸内細菌を受け継げるようになることが期待されています。

この「母親から乳児への腸内細菌の受け継ぎ」についてはいずれ別の記事で取り上げると思いますので、ご期待ください!

ちなみに、研究では病原菌が便に含まれていないことの事前検証なども含め、安全に対して細心の注意を払って実施されていますので、決して自己判断で真似はしないようにしましょう。

② 生まれた後の腸内フローラは食生活や下痢などでどう変わるのか

腸内フローラは様々な生活習慣やストレスなどに影響を受けて日々変化していますが、その中でも特に影響をするのは「食習慣」であると言われています [5]。

私達の食べたもののうちの未消化物が腸内細菌にとってのエサになっているので、そのエサを好む腸内細菌がより多く棲む形でバランスが変わるんですね。

非常に極端な例ですが、植物性由来の食品しか食べない、もしくは動物性由来の食品しか食べない食事を4日間行うだけで、腸内フローラが摂取した食品に合わせて変化したことも報告されています[6]。

もちろん、普段の食事にプレバイオやプロバイオを少し追加する程度の変化ならそこまで劇的な変化は見られませんが、極端な食習慣の変更であれば数日程度で変化が現れるんです。

ちなみに、よく「遺伝的背景は関係しないのか」と質問を受けるのですが、実は遺伝的背景の腸内環境への影響はそこまで大きくないと言われています [7]。

その他に腸内フローラに強く影響するのは「抗生物質」です。要は「菌を殺す薬」ですね。

使用すると腸内細菌が死んでしまいますので、もちろん腸内細菌のバランスも大きくと変わってしまうわけです。

とくに乳幼児期の抗生物質の服用は影響が大きく、腸内フローラのバランスが乱れたり、多様性の低下や炎症性細菌が増加して、肥満や自己免疫疾患のリスクが高まることが報告されています[8]。

では質問者さんが気になっている「下痢」はどうかと言うと、これは少々解釈が難しいものになります。

そもそも「下痢」は腸内フローラを変える可能性がある一方で、腸内フローラが変わったことによって生じている可能性もあるからです。

下痢などの症状が見られる過敏性腸症候群(IBS)などは腸内フローラを健康な人から移植することで改善するなども報告されています[9]。
要は「下痢によって腸内フローラが変わった」のか、「腸内フローラが変わったため下痢になったのか」が現状ではまだ明らかになっていないのです。

一方で、感染性の下痢の場合は抗生物質を処方されることがありますが、その場合は前述した通り抗生物質による影響を受けるため、腸内フローラが変化する可能性があります。

まとめると、現状の知見で言えることは「腸内細菌が先か、下痢が先かはまだ分からないが、少なくとも感染性の下痢の場合は抗生物質の服用により腸内フローラが変わる可能性はある」となるかと思います。

③ 腸内フローラが全くの別人になることはあるのか

学術的には「別人の腸内フローラ」と判断する基準が存在しないため、厳密な判断は非常に難しいのですが、少なくとも病気になったり、抗生物質の服用や便移植の実施などの特殊な状態にならない限り、腸内フローラが「全くの別人」と思えるほど変化することは無いと思われます。

より正確に言うのであれば、食生活を変えた場合などの腸内フローラの変化程度であれば「腸内フローラのグラフがぱっと見た感じでは別人に見えるけれども、研究者が解析すればどの人の腸内フローラかある程度予想ができる」ので、別人と言えるほどの変化がない、と考えることが出来ます。

そもそも腸内フローラの個人の特徴を見る際には、「腸内細菌のバランス(どの腸内細菌がどのくらいの量いるか)」だけでなく「腸内細菌の組み合わせ(どの腸内細菌が腸内にいるか)」を見ます。

この2つのうち、腸内細菌の量(バランス)は日々の食事でブレや変化が生じやすいですが、その人のお腹の中にいる腸内細菌の組み合わせは安定していることが多いです。

そのため、食習慣を変えてパッと見では腸内フローラが別人のように変化していても、どの腸内細菌が含まれるのかを見てみると、実はその組み合わせがほとんど変わっていません。

そのため、「腸内細菌の組み合わせ」の類似度を見ることによってある程度の個人識別が出来たりします。

一方で、便移植など「別の人の腸内フローラを移植」する場合は、お腹にいる菌の組み合わせそのものを変えることになりますので、この場合は別人と言ってもよいほど腸内環境が変わっていると言えるかもしれません。

少なくとも、よほど極端なことをしない限り腸内フローラが別人レベルで変わることは有りませんので、そこは安心して皆さんも色々と食習慣の変化を試してみてもらえたらと思います。

最後に

いかがでしたでしょうか。
特に乳幼児期の腸内環境については研究が非常に活発に行われており、気になっている方も多くいるようですので、いずれonakademyでもテーマとして取り上げられたらと思います。

こうご期待!

参考文献

  1. Bäckhed, F. et al. Dynamics and Stabilization of the Human Gut Microbiome during the First Year of Life. Cell Host Microbe 17(5), 690 (2015).

  2. Reyman, M. et al. Impact of delivery mode-associated gut microbiota dynamics on health in the first year of life. Nat. Commun. 10(1), 4997 (2019).

  3. Zhang, C. et al. The Effects of Delivery Mode on the Gut Microbiota and Health: State of Art. Front. Microbiol. 12, 724449 (2021). 

  4. Korpela, K. et al. Maternal Fecal Microbiota Transplantation in Cesarean-Born Infants Rapidly Restores Normal Gut Microbial Development: A Proof-of-Concept Study. Cell 183(2), 324 (2020).

  5. Yang, J. et al. Gut bacteria formation and influencing factors. FEMS. Microbiol. Ecol. 97(4), fiab043 (2021).

  6. David, LA. et al. Diet rapidly and reproducibly alters the human gut microbiome. Nature 505(7484), 559 (2014).

  7. Scepanovic. P. et al. A comprehensive assessment of demographic, environmental, and host genetic associations with gut microbiome diversity in healthy individuals. Microbiome 7(1), 130 (2019).

  8. Vangay, P. et al. Antibiotics, pediatric dysbiosis, and disease. Cell Host Microbe 17(5), 553 (2015).

  9. Körner, E. & Lorents, A. Fecal microbiota transplantation in patients with irritable bowel syndrome: an overview of current studies. J. Appl. Microbiol. 134(3), lxad044 (2023).

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