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誤解しているかも?便秘と食物繊維のカンケイ

便秘の改善策として必ず取り上げられる食物繊維。大切なのは間違いないのですが、取り入れ方を間違えると、効果が得られなかったり、逆効果になってしまうかもしれません。

実は今回、私も便秘と食物繊維のカンケイについて誤解していたことがあったことに気付きました。

そこで、誤解されがちな内容をピックアップして、みなさんにもお伝えしたいと思います。


1.どんな食物繊維にも便通改善効果がある?


onakademyを訪れているみなさんはご存知かもしれませんが、食物繊維にもいろんな分類や種類があります。(詳しくはこちら

不溶性食物繊維、水溶性食物繊維、発酵性食物繊維が特によく知られている分類ですが、便通改善においてはこの分類だけでは語れない部分があります。
そして、食物繊維の種類によっては特に便通改善効果がなかったり、むしろ便秘を引き起こす可能性があるものもあります。

※ここでは「便通改善」に必要な要素を、便のかさや水分量を増やし、やわらかくすることとしています。

次はあえて上記の分類での誤解を取り上げながら、便秘と食物繊維のカンケイを紐解いていきます。

2.不溶性食物繊維を食べすぎると便が硬くなる?


繊維質な野菜に多く含まれる不溶性食物繊維はなんとなく便が硬くなるイメージがありませんか?私もそうでした。

必ずしも間違いではないのですが、「不溶性食物繊維」と一括りにすることはできないようです。

そもそも不溶性食物繊維が便通を改善するメカニズムは、繊維の粒子が大腸の粘膜を物理的に刺激して、水分と粘液の分泌を促すというものです(水分と粘液の分泌を促すのは摩擦から腸管を守るため)[2][3]。

私は不溶性食物繊維に水分を奪うイメージを持っていたので、これ自体が意外でしたが、実はこの作用は繊維の粒子の大きさによって異なります。
粒子が大きくて粗いと便がやわらかくなり、粒子が細かくなめらかだと便が硬くなったという報告があります[4][5]。

そのため、不溶性食物繊維の中でも、さらには同じ種類の食物繊維でも、便通改善効果を持つものと、逆に便秘効果を持つものがあるということなのです。

現状、粒子の大きさにまで着目して摂取する食物繊維を選ぶのは難しいですが、もしかすると今後の製品づくりや商品選びの1つの指標になるかもしれませんね。

3.水溶性食物繊維はゲル化して便をやわらかくする?


では、水溶性食物繊維はどうでしょう?

私は、水溶性食物繊維は水分を抱え込んでゲル化するため、便をやわらかくしてくれるイメージを持っていました。

これ自体は確かにそうなのですが、水溶性食物繊維のすべてがゲル化して粘性を持つわけではなく(β-グルカン、サイリウム、グアーガムなどがゲル化することがわかっている一方、イヌリンやフラクトオリゴ糖などは粘性を持ちません)、また、腸内細菌によって発酵されることにより、ゲル化する特性と保水能力が失われてしまいます[2][3][6][7]。

なので、理論上は便をやわらかくする目的で水溶性食物繊維を摂るときには、ネバネバ・ぬるぬる系かつ腸内細菌が利用しづらいものがよいということになりますね。

4.食物繊維は腸を刺激して蠕動(ぜんどう)運動を促す?


2で不溶性食物繊維の粒子が大腸の粘膜を物理的に刺激することをお伝えしましたが、腸の蠕動運動にも影響を与えるのでしょうか?答えはNoです[8]。これも誤解が多いのではないでしょうか?

ただし、食物繊維は便の粘度を変えることで腸の通過速度を変え、排便のしやすさ、排便の頻度に影響を与えています[3][9-11]。

わかりやすい例でいうと、下痢のときは頻繁にトイレに行きたくなりますよね。下痢は便の粘度が低い状態なので、腸管を通過する速度も早い状態です。一方、下痢症状が改善してくるとトイレに行く回数が減るのは、便の粘度が高くなり、結果的に腸管の通過速度も遅くなることが理由です。便秘の改善の場合はその逆になります[2-3][12-14]。

上記の通り、食物繊維は物理的には蠕動運動に影響を与えませんが、一方で、食物繊維が腸内細菌によって発酵されると短鎖脂肪酸が作られます。この短鎖脂肪酸には蠕動運動を促進する機能がある[15-18]ことが知られているため、間接的に蠕動運動の促進には役立っているとも言えますね。

さて、みなさんは便秘と食物繊維のカンケイについて、誤解していることはありましたか?
今回参考にした文献では、食物繊維が直接的に便通改善に寄与するためには大腸で腸内細菌による発酵を受けないことが必要な要素とされていました[2][10]。

しかし、摂取した食物繊維がどの程度発酵できるかはその人の持つ腸内環境によって異なるため、便通改善効果の認められる食物繊維も一律ではないと考えられます。

自分の腸内環境を知って、自分にあった便秘対策ができる。そして、そもそも便秘にならない腸内環境に持っていく。そんな層別化ヘルスケアが早く実現できるといいですね!

補足


今回の文献では、食物繊維サプリメントのような単離された食物繊維に焦点が当てられていました。

普段私たちが口にする食材は不溶性食物繊維や水溶性食物繊維、デンプンなどが組み合わさってできているため、腸への届き方や腸での発酵性などはサプリメントとは異なる挙動を示す可能性もあります。

普段から便が硬くなりがちな人は我慢しすぎず酸化マグネシウム便秘薬※の力を借りるのも1つの手です。

※酸化マグネシウム便秘薬
 腸の中に水分を引き寄せて腸の運動や排便を助ける便秘薬。お腹が痛くなりにくく、クセになりにくいのが特徴。ただし、用法・用量・他の薬との飲み合わせなどはお医者さんや薬剤師さんに相談してくださいね。

私も子どもの頃から、前回いつうんちをしたか思い出せないくらいのかなりの便秘症だったのですが、

①葉物野菜や生野菜、繊維質な野菜よりもお米や果物、根菜などを意識的に摂ること
②硬いかな?と思ったら早めに酸化マグネシウム便秘薬を投入すること
③朝ご飯を食べた後に一息つく時間を持つこと

の3つでだいぶコントロールがしやすくなりました。

せっかちで予定を詰め込みがちな私には副交感神経を優位にする③も大事な要素だということがわかったので、バタバタしがちな朝ですが、優雅にお茶を一杯飲めるくらい余裕のある大人になりたいなと思います(笑)

参考文献


[1] McRorie JW and McKeown NM.Understanding the Physics of Functional Fibers in the Gastrointestinal Tract: An Evidence-Based Approach to Resolving Enduring Misconceptions about Insoluble and Soluble Fiber. J Acad Nutr Diet. 117(2) , 251-264 (2017).

[2] McRorie, JW. and Fahey, G. Chapter 8: Fiber supplements and clinically meaningful health benefits: Identifying the physiochemical characteristics of fiber that drive specific physiologic effects in  The CRC Handbook on Dietary Supplements in Health Promotion (eds. Taylor, C.)
Florence, KY, (CRC Press,2015).

[3] McRorie JW. Evidence-Based Approach to Fiber Supplements and Clinically Meaningful Health Benefits, Part 2: What to Look for and How to Recommend an Effective Fiber Therapy. Nutr Today. 50(2), 90-97 (2015).

[4] Brodribb AJ and  Groves C. Effect of bran particle size on stool weight. Gut. 19(1), 60-63 (1978).

[5] Wrick, KL. et al. The influence of dietary fiber source on human intestinal transit and stool output. J Nutr. 113(8), 1464-1479 (1983).

[6] Wolever, TM and Robb, PA.  Effect of guar, pectin, psyllium, soy polysaccharide, and cellulose on breath hydrogen and methane in healthy subjects. Am J Gastroenterol. 87(3), 305-10 (1992).

[7] Lampe, JW. et al. Gastrointestinal effects of modified guar gum and soy polysaccharide as part of an enteral formula diet. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 16(6), 538-44 (1992).

[8] Greenwood-Van Meerveld, B. et al. Comparison of effects on colonic motility and stool characteristics associated with feeding olestra and wheat bran to ambulatory mini-pigs. Dig Dis Sci. 44(7), 1282-7 (1999).

[9] Jackson, KG. et al. The effect of the daily intake of inulin on fasting lipid, insulin and glucose concentrations in middle-aged men and women. Br J Nutr. 82(1), 23-30 (1999).

[10] McRorie, JW. et al. Effects of fiber laxatives and calcium docusate on regional water content and viscosity of digesta in the large intestine of the pig. Dig Dis Sci. 43(4), 738-45(1998).

[11] McRorie, JW. et al. Psyllium is superior to docusate sodium for treatment of chronic constipation. Aliment Pharmacol Ther. 12(5), 491-7 (1998).

[12] McRorie, JW. et al. Characterization of propagating contractions in proximal colon of ambulatory mini pigs. Dig Dis Sci. 43(5), 957-63 (1998).

[13] Bassotti, G. et al. Contractile activity of the human colon: lessons from 24 hour studies. Gut. 34(1), 129-33 (1993).

[14] Bassotti, G. et al. Colonic motility in man: features in normal subjects and in patients with chronic idiopathic constipation. Am J Gastroenterol. 94(7), 1760-70 (1999).

[15] Yajima, T. Sensory mechanisms for SCFA in the colon. in: Physiological and clinical aspects of short-chain fatty acids (eds. J.H. Cummings, J.L. Rombeau, T. Sakata), (Cambridge University Press, Cambridge. 1995). 

[16] Yajima, T. Effect of Sodium Propionate on the Contractile Response of the Rat Ileum in Situ. Jap. J. Pharmacol. 35(3), 265-271 (1984).

[17] Grider, JR. and Piland, BE. The peristaltic reflex induced by short-chain fatty acids is mediated by sequential release of 5-HT and neuronal CGRP but not BDNF. Am. J. Physiol.  292(1), 429-437 (2006).

[18] C. Cherbut, C. Effects of SCFA from the large intestine in: Physiological and clinical aspects of short-chain fatty acids. (eds. J.H. Cummings, J.L. Rombeau, T. Sakata)(Cambridge University Press, Cambridge 1995)

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