見出し画像

腸内環境の乱れと疾患をつなぐ 腸管バリア機能。「良い腸内環境」の新たな指標となるか


こんにちは。onakademy編集部です。

近年、腸内環境の研究分野において、「腸管バリア」という機能に注目が集まっています。


腸管バリアとは?


腸管バリアとは、その名の通り腸管において有害なものが体内に入ることを防ぐためのバリアとなる機能を指します。

実は、大腸を含む消化管は口から肛門まで一本の管のような構造になっています。

ちくわやホースのような構造ですね。

そのため、腸は体の内部にある臓器ではあるものの、その内側は環境としては「体外」(口腔から入ってきた病原菌などがそのまま大腸まで到達できる)になるので、常にウイルスや病原菌など、様々な脅威に晒されています。

病原菌や有害物質の多くは唾液や胃液などで消化(分解)され大腸まで到達することはありませんが、生き残ってしまったものは大腸に到達します。

それらが体内に入らないようにしてくれているのが腸管バリア機能なのです。

逆に、腸管バリア機能が破綻してしまうと腸から病原菌などの異物が体内に入り込み、血流を介して体内組織にも影響を与えてしまいます。

その結果、腸管のみならず全身の炎症にもつながり、炎症性腸疾患、自己免疫疾患やアレルギーなど、様々な疾患の原因[1]となってしまうのです。

そういった背景から、腸管バリア機能を高めることが健康維持において重要です。

近年の報告では、腸管バリア機能はプロバイオティクス[2][3]やプレバイオティクス[4]によって増強される可能性が示唆されており、これらを通して腸内環境を整えることは腸管バリア機能の改善にもつながることが期待されます。

「タイトジャンクション」のはたらき


病原菌などの流入を防ぐためバリアが必要な一方で、大腸は有益な物質を体内に吸収する重要な役割も持っています。ナトリウムなどのイオンや水の再吸収などがこれに当たります。

そのため、有害な物質の流入は避けながら、必要な物質だけ取り入れる機能が必要です。

物質の腸管から体内への移行には大きくわけて2つの経路があります[1]。

一つは、細胞表面に発現しているチャネル(物質の透過を制御するタンパク質)を介した「細胞の中を通る」経路(transcellular pathway)で、この経路がさらにエネルギーを消費しない「受動輸送」と、エネルギーを消費する膜輸送タンパク質による「能動輸送」の2つに分けられます。

もう一方の経路が、タイトジャンクションと呼ばれる腸の上皮細胞同士を結合するタンパク質の集合体により制御される、「細胞の間を通る」経路(paracellular pathway)です。

平常時は、タイトジャンクションが機能することで病原体などが細胞の間を通過することができない状態になっています。

多くの疾患における腸管バリアの乱れでは、このタイトジャンクションが破綻してしまっていることがわかっています[1]。

腸管バリアが破綻するから疾患になってしまうのか、疾患になるから腸管バリアが破綻するのかはまだ明確にわかっていませんが、疾患と関連があることが最新の研究で明らかになってきているのです。

腸管バリアが破綻するメカニズム


では、どのようなメカニズムで腸管バリアは破綻してしまうのでしょうか。

以下の図はタイトジャンクションの破綻とともに、菌などが体内に漏出する様子を表しています。

腸管バリアの破綻するメカニズム

腸管バリアが破綻するメカニズムとしては以下のように説明できます[5]:

  1. 細菌や、グルテンの分解物であるグリアジンが腸管上皮細胞に結合します。

  2. 細胞内にシグナルが送られゾヌリンというタンパク質が過剰に分泌されます。

  3. 分泌されたゾヌリンが腸管上皮細胞に改めて結合することで、タイトジャンクションを形成しているタンパク質同士の結合が弱まります。

  4. その結果細菌や毒素などの異物が体内に漏出し、血流を介して全身にめぐることで腸や全身で炎症を引き起こします。

このように、腸管バリア機能の破綻には腸内細菌が多分に関わっており、生活習慣や食習慣の乱れなどでそのバランスが崩れてしまうと腸管バリアの破綻ないしは疾患の発症にも繋がってしまう可能性があるのです。

腸内環境を整えて頑健な腸管バリアを保つことは良い腸内環境の指標であると言えるでしょう。

参考文献

[1] Chelakkot, C., Ghim, J. & Ryu, S.H. Mechanisms regulating intestinal barrier integrity and its pathological implications. Exp Mol Med 50, 1–9 (2018).
[2] Di Luccia, B. et al. Modulation of intestinal epithelial cell proliferation and apoptosis by Lactobacillus gasseri SF1183. Sci Rep 12, 20248 (2022). 
[3] Min, S. et al. Live probiotic bacteria administered in a pathomimetic Leaky Gut Chip ameliorate impaired epithelial barrier and mucosal inflammation. Sci Rep 12, 22641 (2022).
[4] Wang, G. et al. Galactooligosaccharide pretreatment alleviates damage of the intestinal barrier and inflammatory responses in LPS-challenged mice. Food Funct 12(4), 1569-1579 (2021).
[5] Heickman, L. et al. Zonulin as a potential putative biomarker of risk for shared type 1 diabetes and celiac disease autoimmunity. Diabetes Metab Res Rev. 36(5), e3309 (2020).


今週も最後までお読みいただきありがとうございます!記事は毎週月曜日更新。次回の記事もお楽しみに!