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辛味を味方に夏を乗り切れ。唐辛子の辛味成分「カプサイシン」の魅力に迫る

こんにちは、onakademy編集部です。本格的な夏も到来し、日々高温多湿と戦う季節になってきました。家にこもる方もいれば、ここぞとばかりプールや海に繰り出す方もいるかと思います。

ところで、夏になると無性に辛いものが食べたくなる、という人はいませんか?

筆者がその口で、(年中辛いものは好きですが)夏になるとひたすら辛いものを食べまくってます。

夏、暑いときに辛いものを食べたくなるのって、なんか直感的には違和感を感じる。。という人もいるかも知れません。
実はこれは理にかなっていることらしいですよ。

辛いものを食べると、汗をかきますよね。その影響で皮膚表面の熱が奪われるので涼しく感じるということらしいです。
そう考えると確かに理にかなっているような気もしますし、暑い東南アジアの国に辛い料理が多いのも納得な気もします。

辛いものの代表的なものに唐辛子がありますが、唐辛子の辛味成分はカプサイシンといいます。カプサイシンはTRPV1という痛み受容体に結合することがわかっています[1]。

TRPV1はカプサイシンの他にも熱湯などの高熱に反応する受容体でもあります。辛いものを食べたときに胃腸がかっかする感覚は、確かに熱さを感じるときと似たような感覚でもありますよね。

このカプサイシンですが、これまでの研究で腸内環境やヒトの健康とも密接に関連していることが明らかになっています。


今回の記事のまとめ
・唐辛子の辛味成分はカプサイシン。
・カプサイシンはドーパミンを介して(運動の)やる気を維持する。
・カプサイシンの摂取により体重増加が抑えられる。
・実は唐辛子により腸の粘膜が保護される。
・食べ過ぎはほどほどに。

唐辛子はやる気スイッチ!?

さきほど、カプサイシンはTRPV1という受容体に結合することをご紹介しましたが、実はこのTRPV1受容体が運動能力ややる気を保つのに必要だと判明しました。

これまでの研究で、運動するとドーパミンという「やる気」に関連する神経伝達物質が分泌されますが、腸内細菌はこのドーパミンの分解を抑えることで、今後も運動を続けようというモチベーションを保つことが報告されています[2]。実際にマウスに抗生物質を与えて腸内細菌がいなくなると、ドーパミンの量も運動能力も落ちてしまうのです。

このときに運動能力ややる気を保つのに必要だと判明したのがTRPV1受容体で、腸内細菌の代謝物質がTRPV1の活性化に重要な役割を持っていることがわかりました。

そして、TRPV1にカプサイシンが結合することは以前から知られていたので、カプサイシンで直接刺激をすると、腸内細菌の有無にかかわらず運動能力が向上することがわかったのです。

つまり、カプサイシンはTRPV1を刺激することで、腸内代謝物質が普段行ってくれているのと同様にドーパミンが分解されるのを防ぎ、やる気を保つ効果があるということですね。

今回参考にした文献は運動時という限定されたシチュエーションでのモチベーションの話でしたが、ドーパミンはそもそも「やる気」に関わる神経伝達物質として知られています。なので、運動以外のやる気やモチベーション向上にもカプサイシンが関連している可能性はあります。

辛党が辛いものを食べ続けるのはドーパミンの作用もあるのかもしれませんね。

唐辛子食べて肥満予防!

こちらは少しイメージがし易いかもしれません。実は、カプサイシンは腸内環境を介して肥満予防に貢献してくれるのです。

脂肪が豊富に含まれている食事(高脂肪食)を取ったマウスは、もちろん通常の食事をしているマウスに比べて、体重が増加します。

ところが、カプサイシンを同時に食べさせると、その体重増加が抑えられるということがわかっています[3]。

どういったメカニズムで体重増加が抑えられるのでしょうか。

カプサイシンを摂取することで、マウスの腸内フローラに変化が起きます。その結果、腸内細菌により産生される短鎖脂肪酸の量が増加するのです。

短鎖脂肪酸は抗肥満効果が報告されていますから、カプサイシンを摂取したときの体重増加が抑えられるのも短鎖脂肪酸の増加によるものと考えられています。

辛いものを食べると汗をかくから痩せそう!というイメージもあるかと思いますが、それは必ずしも正しくはないでしょう。

ダイエットに汗が伴うのは、運動をして脂肪が燃焼するときに生まれる余分な熱を逃がすための体の自然な反応です。要するに、汗は脂肪燃焼の副産物なんですね。

つまり、痩せるときには汗をかくことが多いですが、汗をかくから痩せるわけではないということです。

唐辛子による体重増加の抑制効果も、「汗をかくから痩せるんでしょ?」と思いがちですが、唐辛子を摂取したときに汗をかくのと体重増加が抑えられるのは全く別の仕組みなんだ、ということを覚えておいてください。

ちなみに唐辛子を食べたときに汗をかく原理については諸説ありますが、カプサイシンがTRPV1と結合することによりアドレナリンが放出され、アドレナリンの作用として発汗が促されるためなどが言われています[4]。

唐辛子で腸の表面が保護される!?

そんなアホな。。。

と思うでしょうか。実はこれも研究で明らかになっていることなのです。

カプサイシンがTRPV1に結合すると、CGRPというタンパク質が分泌されます(名前は覚えなくても大丈夫です!)。
このタンパク質がまた別の受容体と結合することで、腸管にある特殊な細胞から粘液が分泌されることがわかっています[5]。

粘液とは、腸や胃の表面を守っているベトベトの液体のことです。この粘液が分泌されることで腸管の表面が病原菌などの異物から守られることになるので、腸内環境が保護されるのです。

ちなみに、TRPV1の機能を阻害したり、CGRPが結合する受容体の数が減ってしまうと粘液の産生が抑えられて、腸内環境も乱れてしまうことも確認されています。

「でも辛いもの食べるとお尻痛いじゃん!腸も傷ついているんじゃないの?」

という疑問が浮かぶかもしれません。

実は、カプサイシンの受容体であるTRPV1は腸内だけでなく、口内やお尻の付近にも存在しています。辛味というのは、「味」ではなく「痛み」や「熱さ」として認識されます。カプサイシンは人の消化酵素によって消化されにくいため、肛門に到達したカプサイシンがお尻付近にあるTRPV1を刺激することで痛みを感じるということなのです。

ただ、そういった痛みなどのストレスによって腸内環境が乱れ、腸が荒れてしまうということは十分考えられます。

カプサイシンによる良い効果は様々ありますが、辛いのが苦手な人はくれぐれも無理せずに。辛いものが得意な人でも、食べすぎには注意しましょう。

何事もいい塩梅が大事だということですね。

あとがき

唐辛子は運動への意欲も授けてくれますし、太りにくい効果も身につけてくれます。おまけに腸管も保護してくれる。魅力たっぷりですね。

夏の暑さを乗り切るにはたくさん食べて適度に運動して、健康な体を維持することが必要です。

唐辛子を味方につけて、うだるような暑さのこの夏を乗り切りましょう!

参考文献

[1] Caterina, M. et al. The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway. Nature 389(6653), 816–824 (1997).
[2] Dohnalová, L. et al. A microbiome-dependent gut–brain pathway regulates motivation for exercise. Nature 612(7941), 739–747 (2022).
[3] Wang, Y. et al. Capsaicin has an anti-obesity effect through alterations in gut microbiota populations and short-chain fatty acid concentrations. Food Nutr Res. DOI: 10.29219/fnr.v64.3525 (2020).
[4] Watanabe T. et al. Capsaicin, a pungent principle of hot red pepper, evokes catecholamine secretion from the adrenal medulla of anesthetized rats. Biochem Biophys Res Commun.142(1), 259-264 (1987).
[5] Yang, D. et al. Nociceptor neurons direct goblet cells via a CGRP-RAMP1 axis to drive mucus production and gut barrier protection. Cell 185(22), 4190-4205.e25 (2022).


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