見出し画像

焼き芋でおならが出るのってなんで?

おならについて皆さんはどのくらい知っていますか?

そもそもおならはなぜ出るのか、焼き芋など特定のものを食べるとおならが出やすいというのは本当なのかなど、実は意外とおならについての知識ってふわっとしてますよね(おならだけに)。

というわけで、今回は皆さんにも身近な「おなら」について色々と話していこうと思います。


そもそも「おなら」って何?

そもそもおならって何でしょう?
至極単純に言うと「おしりから出るガス」だと思いますが、そもそもこのガスってどこから来てるんでしょうか?

お腹の中のガスは、基本的に「飲食物といっしょに飲み込んだ空気」であったり、「お腹の中で腸内細菌が作り出すガス」として作られ、お腹の中に溜まっていきます。

そしてこれらのガスは腸管内である程度吸収されたり腸内細菌によって使われるのですが、吸収や消費が追いつかずに溜まってしまうとおならとして排出されます。

では「飲食物といっしょに飲み込んだ空気」と「お腹の中で腸内細菌が作り出すガス」のどちらがよりおならに含まれるのかというと、これは圧倒的に後者です。

健康な人が出すおならはだいたい1日あたり500~1,500mLとされています[1]。そして健康な人の腸内で作られるガスの量はだいたい200~1,500mLと報告されています[2]。

要はおならはほとんどが「お腹の中で腸内細菌が作り出すガス」なのです。

こう考えてみると、私達がおならをしているのではなく、腸内細菌がおならをしているようなものなので、人前でおならをしても「いや私じゃなくて腸内細菌のガスだから」と堂々としていても良いかもしれません。

ちなみにこの「お腹の中で腸内細菌が作り出すガス」。
実はそのほとんどが無臭な物質なのはご存知ですか?
腸内細菌が作るガス物質は水素・二酸化炭素・メタンが99%を占めており、これらは実は匂いのないガスなんです[2]。

じゃあなんでおならってあんなに臭いんだ!というと、残りの1%が非常に強い匂いのする気体で構成されているからなんですね。

硫化水素(腐卵臭)・メタンチオール(玉ねぎの腐った匂い)・ジメチルスルフィド(潮臭さ)や短鎖脂肪酸などがこの残りの1%なのですが、これらが混ざり合うことであのなんとも言えない悪臭になっているんです[2]。

ちなみにこのニオイ成分の比率が腸内細菌のバランスや食べたもの(腸内細菌がエサにしたもの)で人それぞれ異なるため、おならも臭い人とそこまで臭くない人がいたりするんですね[3,4]。

「おなら」のガスはどうやって作られている?

おならが腸内細菌が作り出すガスということがわかりました。
では腸内細菌がガスを作るのはどのような時でしょうか?

そもそも腸内細菌はガスそのものを作りたいわけではありません。
腸内細菌は彼らがエサとする食物繊維などを食べている(代謝している)時に、そのおまけ(副産物)としてガスを作り出しているのです。

例えば、腸内環境で最も多く作られるガスは水素ですが、この水素は腸内細菌が食物繊維を代謝して短鎖脂肪酸を作る過程で、ブドウ糖を分解する時に副産物として作られます[2]。

このブドウ糖は私達ヒトにとって重要なエネルギー源ですが、腸内細菌にとってもエネルギー源として使われています。

そのため、大半の腸内細菌はこのブドウ糖を代謝することができます。
そして、実際にたくさんの腸内細菌が腸内でブドウ糖の代謝を行うため、その過程で水素がたくさん作られているんですね。

言い換えれば、ガスがたくさん作られているということは「腸内細菌が活発に活動している」とも捉えられます。

実際に、食物繊維など腸内細菌が代謝することができる食品を食べることで腸管中でのガスの作られる量が増えるという報告もあります[5]。

焼き芋を食べるとおならが出やすくなるのは本当?

「おなかでガスを作りやすい食べ物」と言われると、皆さんは何を思い浮かべますか?

日本人の場合、焼き芋などを思い浮かべる人が多いんじゃないでしょうか。

けどなんで焼き芋っておならが出やすくなるんでしょうか?

実はこれにはいくつかの理由があるのです。

① さつまいもは食物繊維の含有量が多い

文部科学省が作成している「日本食品標準成分表」によると、100gのさつまいもに含まれる食物繊維量は2~6g程度のようです。
この数字だけ聞いても多いか少ないかわからないかと思いますが、例えば白米100gあたりの食物繊維量は1g以下、玄米でも2-3g程度とされていますので、食物繊維が非常に豊富な食材であることがわかります。

② たくさん食べやすい

食物繊維量が多い食材だと言いましたが、同じくらいたくさん食物繊維を含んでいる食材は他にもあります。
例えば海藻類、きのこ類、大豆類なども同じくらい食物繊維を含んでいます。

けれどあまりおならが出るイメージはありませんよね?

これはシンプルに「焼き芋だとたくさん食べやすい」ので、意識せずにたくさん食物繊維を取れているからですね。

よくスーパーやコンビニなどで売られている焼き芋は100~200g程度だと思います。このぐらいの量の焼き芋ですと、皆さんペロッと食べてしまいますよね。

けれど、普段自炊している人ならわかるかと思いますが、この量の海藻やきのこを1食で食べるのはなかなか大変です。

つまり、焼き芋は食物繊維が多いことに加えて、他の食材と比べて食べやすいため、結果的に食物繊維をたくさん摂取することにつながっているんですね。

③ さつまいもは食物繊維と糖質を両方豊富に含んでいる

焼き芋には「食物繊維」だけではなく「糖質(炭水化物の内、食物繊維ではないもの)」も豊富に含まれています。

じっくり焼いた焼き芋はすごく甘いと思いますが、これはさつまいもに含まれる糖質であるでんぷんがさつまいも自身の持つ酵素によって分解されてマルトース(麦芽糖、こちらも糖質)という甘み成分になるためです。

このマルトースを含む糖質の多くは食べても小腸で多くが消化吸収されるため、あまり大腸に届くことはないと言われています。

ですが、実は焼き芋のマルトースは大腸に届く可能性があります。

これは、焼き芋には「食物繊維と糖質の両方が豊富に含まれているから」なのです。

基本的に糖質は多くが小腸で消化吸収されますが、一緒に摂取する食物繊維の量が多ければ多いほど、小腸で吸収されずに大腸まで届くと言われているのです[6]。

これは実際にヒト臨床試験でも示されています。

回腸ストーマ(大腸の病気などが理由で大腸を摘出し、小腸の末端を人工肛門として外に出した状態)の患者にいろいろな食品を食べてもらい、ストーマ廃液に残っている成分を分析したところ、摂取物の食物繊維量と排液中に残存している炭水化物量が相関していたのです[7]。

小腸の末端部位である回腸のストーマから排出される排液は「大腸に到達する物質」とほぼ同義なので、この研究から食物繊維量の多いものを食べると、一緒に食べた糖質が小腸で吸収されずに大腸にたどり着きやすくなることが示されているのです。

要は、焼き芋は糖質と食物繊維を両方豊富に含むため、他の食品と比べて糖質が大腸まで届くことが多く、この糖質も腸内細菌のエサとして代謝されるため、ガスがよりたくさん作られる、というわけなんですね。

特に③については知らなかった方も多いのではないでしょうか。
上記のような複合的な理由で、焼き芋など一部の食品ではおならが出やすくなっているんですね。

ちなみに暴飲暴食をするとお腹が張る・おならが出やすくなるという経験をした方もいるかと思いますが、これも同様に「普段だとあまり届かない糖質などが大腸に届く」ことで起きる現象だと思われます。

こちらの場合は、単純に小腸の吸収能力の上限[8]を上回る量を食べることで、消化・吸収不良の摂取物が大腸に届き、それらに含まれている糖質などが腸内細菌によって代謝されることで過剰にガスが作られてしまっているのです。

「おなら」がでるのは良いこと?悪いこと?

ここまでで「おならは腸内細菌の作るガスで出来ている」ことや「ガスが作られているということは腸内細菌が活動している」ことをお伝えしましたが、これを聞いて「腸内細菌が活発に活動してくれていることを表しているのであれば、ガスがたくさんできておならがたくさん出ることは良いことなんじゃないか?!」と思った方もいるかと思います。

これは残念ながら一概に良い状態とは言えません。

前述した通り、腸内細菌が短鎖脂肪酸などの有益な物質を代謝する過程でガスは作られているため、確かに腸内細菌が作るガスの量は、腸内細菌の活動量のバロメーターになるかもしれません。

一方で、「おならがたくさん出る」というのは「腸内細菌がガスを作る量」に対して、「ヒトがガスを吸収する量」、「腸内細菌がガスを消費する量」のバランスが崩れてしまった状態です。

このガスが過剰に作られる状態は、ヒトにとっても腸内細菌にとっても好ましい状態ではありません。

ヒトの場合は腹痛やお腹の張りの原因になりますし、炎症性腸疾患などの疾患においてもガスの産生量は症状の深刻さと相関すると言われています[2,9]。

腸内細菌にとっても特定のガスの濃度が高すぎると働きにくくなります。そのため腸内細菌の中には水素ガスを消費してガスを溜まりにくくしてくれている菌も存在します [10]。

短期的に見るとお腹の中で腸内細菌が活発に動いてくれているのは事実なのですが、長期的に見て健康に良い方向に働くとは限らないんですね。

ただ、度を過ぎて過剰でなければガスが多いこと自体がポジティブに働く可能性も研究で示されており、腸管内の水素量が多いと一部の腸内細菌による酪酸(短鎖脂肪酸の一種)産生が促進されるという報告もあります[11]。

おならが出すぎるほど過剰にガスが作られるのは菌にもヒトにもよくありませんが、ガスが作られる事自体は悪いことではない、ということですね。

おならの臭いからなにか分かることはある?

おならの臭いも実は重要なポイントです。

先に述べた通り、おならの匂いはガス全体の1%を占める匂い物質で決まりますが、この物質の組成は「腸内細菌の組成」と「何を食べたか」で決まります。

そして、この匂い物質の多くは硫化水素などの硫黄を含む物質なのですが、硫化物は腸管中で高濃度になると有害なため、「おならが臭い(=硫化物を多く含む)」場合は気をつけたほうが良いかもしれません[2,12]。

最近ではこのお腹のガスが病気の検出や治療モニタリングに使えるかもしれないということで、研究も盛んに行われています[13]。

普段から体調とおならの臭いを意識しておくと、普段と違う匂いから自身の体調の変化に気づくこともできるかもしれませんね。

おならを少しでも減らしたいあなたに

さて、今回はおならについて色々話してみましたがいかがでしたか?

くさい・恥ずかしいと普段は目を逸らしがちなおならですが、実は腸内環境を知るうえでは結構重要であることを感じていただけたと思います。

とはいえ、普段の生活でおならはできればしたくないものですよね。

そんな皆さんに一つ有用な情報を。

実は一部の食物繊維には「おならを減らしてくれる効果」が報告されているんです。

例えばサイリウム(オオバコの種子)という食物繊維は、炎症性腸疾患の患者に飲ませると、腸内細菌の代謝を阻害せずガス産生だけ抑えてくれるという報告があります[14]。

実際に私もサイリウムを普段から飲んでいますが、飲んでいないときと比べておならの回数が減っている体感があります。

腸活をしたいけどおならが出やすくなりそうで嫌だなと思っているそこのあなた、腸活の中にサイリウムなどのおならが出にくい食物繊維を取り入れてみると良いかもしれませんよ。

参考文献

  1. Tomlin, J., Lowis, C. & Read, N. W. Investigation of normal flatus production in healthy volunteers. Gut 32, 665–669 (1991).

  2.  Mutuyemungu, E., Singh, M., Liu, S. & Rose, D. J. Intestinal gas production by the gut microbiota: A review. J. Funct. Foods 100, 105367 (2023).

  3.  Yu, X., Gurry, T., Nguyen, L. T. T., Richardson, H. S. & Alm, E. J. Prebiotics and community composition influence gas production of the human gut Microbiota. MBio 11, (2020).

  4. Meiller, L. et al. Metabolic signature of 13C-labeled wheat bran consumption related to gut fermentation in humans: a pilot study. Eur. J. Nutr. 62, 2633–2648 (2023).

  5. Mego, M., Accarino, A., Malagelada, J.-R., Guarner, F. & Azpiroz, F. Accumulative effect of food residues on intestinal gas production. Neurogastroenterol. Motil. 27, 1621–1628 (2015).

  6. Wong, J. M. W. & Jenkins, D. J. A. Carbohydrate digestibility and metabolic effects. J. Nutr. 137, 2539S–2546S (2007).

  7. Jenkins, D. J. et al. Digestibility of carbohydrate foods in an ileostomate: relationship to dietary fiber, in vitro digestibility, and glycemic response. Am. J. Gastroenterol. 82, 709–717 (1987).

  8. Gromova, L. V., Fetissov, S. O. & Gruzdkov, A. A. Mechanisms of glucose absorption in the small intestine in health and metabolic diseases and their role in appetite regulation. Nutrients 13, 2474 (2021).

  9. Carbonero, F., Benefiel, A. C. & Gaskins, H. R. Contributions of the microbial hydrogen economy to colonic homeostasis. Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol. 9, 504–518 (2012).

  10. Smith, N. W., Shorten, P. R., Altermann, E. H., Roy, N. C. & McNabb, W. C. Hydrogen cross-feeders of the human gastrointestinal tract. Gut Microbes 10, 270–288 (2019).

  11. Campbell, A., Gdanetz, K., Schmidt, A. W. & Schmidt, T. M. H2 generated by fermentation in the human gut microbiome influences metabolism and competitive fitness of gut butyrate producers. Microbiome 11, 133 (2023).

  12. Attene-Ramos, M. S., Wagner, E. D., Gaskins, H. R. & Plewa, M. J. Hydrogen sulfide induces direct radical-associated DNA damage. Mol. Cancer Res. 5, 455–459 (2007).

  13. Kalantar-Zadeh, K., Berean, K. J., Burgell, R. E., Muir, J. G. & Gibson, P. R. Intestinal gases: influence on gut disorders and the role of dietary manipulations. Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol. 16, 733–747 (2019).

  14. Gunn, D. et al. Psyllium reduces inulin-induced colonic gas production in IBS: MRI and in vitro fermentation studies. Gut 71, 919–927 (2022).

今週も最後までお読みいただきありがとうございます!記事は毎週月曜日更新。次回の記事もお楽しみに!