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バリウム検査は腸内細菌叢に悪影響を及ぼすのか?

こんにちは、onakademy編集部です。

毎年この時期になると、多くの方が健康診断を受けることと思います。健康診断の項目の中でも、特に強い印象を残すのはバリウム検査です。あの白いどろりとした液体を飲んで、その後白い便が出てくることに衝撃を受ける方は少なくないでしょう。

あまりの非日常さゆえ、健康診断後に

「バリウム検査が腸内細菌叢に悪影響を与えているのではないか?」

と心配される方もいるかもしれません。そこで今回は、バリウム検査が腸内細菌叢に与える影響についてお伝えします。


硫酸バリウムは極めて安定な化合物

バリウム検査は、消化管の状態をX線で確認するための検査です。検査では、バリウム硫酸塩(BaSO4)を含む造影剤を飲み、消化管の形状や動きをX線で観察します。BaSO4はX線をよく吸収するため、消化管の内部を鮮明に映し出すことができます。

実は、BaSO4が腸内細菌叢に与える影響を主に調べた報告は今のところ見つけられませんでした。

その代わり、BaSO4がごく一般的な造影剤であるという事を利用し、新しい造影剤の機能を検討する際の対照群として使用されています。

マウスを用いたこれらの研究から得られた知見を基にすると、BaSO4の経口摂取が腸内細菌叢に与える影響は非常に小さいという事が示されています[1]-[4]:

  • 内臓および結腸の微絨毛や粘膜固有層といった構造に損傷がない

    • BaSO4を投与されたグループの内臓や結腸の構造に顕著な損傷は認められませんでした。

  • 腸内細菌叢の多様性に大きな変化がない

    • BaSO4を投与されたグループでは、腸内細菌叢の多様性に大きな変化が認められず、健康な腸内細菌叢が維持されていることが確認されました。

    • 一部、Odoribacterという腸内細菌に再現性のある増加が認められたものの、相対存在比が1%未満の菌なので菌叢全体の中ではごく小さい変化であると考えられます[4]。

BaSO4は極めて安定な化合物であり、腸内環境まで届いても腸内細菌叢に及ぼす影響は小さいと言えるでしょう。

肝心なのはバリウムよりもその後の下剤だった

しかし影響がないのはあくまでBaSO4の話であり、気になるのはその後、体内に残ったBaSO4をできるだけ早く排出するために使用する下剤の影響です。

バリウム検査後に渡される赤い丸い錠剤のセンノシドは、便秘に対して用いられる漢方薬の大黄甘草湯のうち大黄に含まれる成分のひとつであり、蠕動運動を促進する効果が認められています。

実は、センノシドは胃や小腸から吸収されることなくそのままの形で大腸に到達し、Bifidobacterium sp. SEN などの一部の腸内細菌により代謝されたのち、さらなる代謝を経て排便を促すレインアンスロンへと代謝されます[5]。

その後代謝されるレインには下剤として機能する報告[7]や不活性になるという報告[8]もあり、生薬研究の奥深さが垣間見えました。センノシドは2つのグルコースを持つ配糖体であり、ジアステレオマーはセンノシドAおよびBと区別されます。

色付きそうな構造だなと思ったらやはり黄色を呈するそうです[6]。
大黄の名前はこの色に由来するのかも?


図1 文献[8]をもとに改変

レインアンスロンは、大腸粘膜上皮細胞上に存在している便の水分量調節を担うアクアポリン-3の発現量を低下させて水分吸収を妨げたり[8]、塩化物チャネルを活性化させることで塩化物イオンの腸管内への分泌を促進します[9]。

これに伴い水分が腸内に移動し、便が水分を多く含むようになるので下痢をもたらすとされています。

センノシドの薬効は、個々人の腸内細菌叢が持つセンノシド代謝活性に依存するものと推定されています[10]。

もしセンノシドが効きにくい場合には他の下剤を利用できないか医師に相談してみて下さい。レインアスロンへと代謝される際には腸内細菌叢にも何らかの影響があると思われますが、糖尿病や肥満に関連のある菌の増減[11]が報告されているものの、未だ報告数は少ないのが現状です。

しかしながら宿主の腸管上皮細胞でのタンパク質発現量や活性化状態に影響することは無視できません。すみやかに元の状態に戻すよう心がけるのがよいでしょう。

また、検診後に背脂マシマシのラーメンを食べてバリウムを排出しやすくしようという動きが一部であるようですが、検査後の消化管にしょっぱくて脂っこい食事を投入するのは、消化管にさらなる負荷をかけるのでお勧めできません。

電解質を含むスポーツドリンクなどを積極的に利用して水分摂取量を増やし、おなかに優しい食事をしっかり摂るよう心がけましょう。また、プロバイオティクス摂取が急性下痢の持続時間を短縮し、症状の改善を促進することが示されています[12]。消化管をいたわりながらバリウム排出を促すことが肝要です。

まとめ

バリウム検査では、BaSO4の経口摂取が腸内細菌叢に与える影響は非常に小さいため、過度に心配する必要はありません。しかし、検査後の下剤服用は腸管そのものに影響を及ぼします。検査後は適切に腸内環境の回復につとめましょう。

参考文献

  1. Shen, J. et al. Ann. Transl. Med. 9, 458 (2021).

  2. Yu, T. et al. Int. J. Nanomedicine 16, 151-165 (2021).

  3. Chen, Q. et al. Sci. Rep. 7, 12369 (2017).

  4. Chen, R. et al. Mater. Today Bio 13, 100178 (2022).

  5. Akao, T. et al. Appl. Environ. Microbiol. 60, 1041 (1994).

  6. Naruhashi, K. et al. J. Pharm. Health Care Sci. 9, 21 (2023).

  7. Sun, X. et al. Int. J. Clin. Exp. Pathol. 11, 614 (2018).

  8. Kon, R. et al. J. Ethnopharmacol. 152, 190 (2014).

  9. Yang, H. et al. Acta Pharmacol. Sin. 32, 834 (2011).

  10. 中村賢一, ファルマシア 58, 567 (2022).

  11. Wei, Z. et al. Oxid. Med. Cell Longev. 2020, 2375676 (2020).

  12. Huang, R. et al. Transl. Pediatr. 10, 3248 (2021).

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